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ガーディアンのグリモア
ガーディアンのグリモア
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Ebook296 pages30 minutes

ガーディアンのグリモア

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About this ebook

ディーランは、自分の事を将来性の無い職につく大した願望もない平均的な若者だと思っていた。彼が表紙に独特な言葉や記号が書いてある黒い本を見つけたとき、宇宙は彼の想像以上に大きいということを発見する。その本の巨大な力を安全に維持し、間違った手に落ちないように守っていた地球のガーディアンが殺害された。今、地球は新しいガーディアンを必要としている。

ディーランの本を保護するための戦いは早々に始まり、彼は新たに得た力を信用し、本を奪うために送り込まれる生き物たちを倒すために戦わなければいけなかった。ディーランの人生は冒険、危険と魔法で満載となることだろう。

彼の本と彼の保護下にある世界を守るためにも、彼は異世界で生き延びることや、想像を絶する恐怖と戦ったり、魔法の技術を学んだりして、最終的には一つの世界を破壊した暗黒の神と戦うことになる。

Language日本語
PublisherBadPress
Release dateSep 2, 2016
ISBN9781507147276
ガーディアンのグリモア

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    ガーディアンのグリモア - Rain Oxford

    第一章

    冗談だろう

    僕のちょうど後ろで荒い息遣いが聞こえたが、振り向く度胸はなかった。僕は再び、持っている力の限り、走った。怪我をした足首の激痛のため、スピードはだせなかったが、巨大な顎のきしみが途轍もなく大きな原動力となった。獣はほとんど走ろうともせず、僕をもてあそんでいた。

    僕が誤って怪我した足で着地して転ぶまでに、そんなに時間はかからなかった。小さい鋭い岩が僕の背中に刺さり、獣に押さえつけられる前に起き上がるチャンスすらなかった。僕は、真っ赤な鮮血のような、丸い目を見据えた。

    その生き物は、巨大な狼にくすんだ黒い毛皮を付けたような外見で、平坦な鼻がついているようだった。また、その耳は怒りで頭にへばりついているようで、牙をむいた顔はしかめっ面というより、むしろ、笑っているようにも見える。獣は僕が怪我をして力を失っていることを知っている。

    獣の口から血がポタポタと僕の肩や体に滴り落ち、僕は感覚を失った。おそらくその唾液が有毒で、なんらかの麻痺する成分が混じっているのであろう。獣は大きいうなり声をあげ、その口を大きく開き…

    「カーターくん!君、今日は授業に参加する予定かい?」

    ルイス先生の声がガラスにハンマーを打つような鋭さで、私を夢の中から連れ戻した。蛍光灯の明るさが眩しく、瞬きながら、何の夢を見ていたのか思い出そうとした。

    「いいえ」と答えた。彼に睨みつけられたとき、肩をすくめる衝動をこらえながら聞いた。

    「質問はなんでしたか?」

    「フロイトの欠点と実績は何だったか?」

    「フロイトの精神分析理論は、それが何かを予測しなかったため撃破された。彼の考えは妥当ではないということで無効化されたが、彼は無意識の存在、つまり、不安とセクシュアリティの苦闘及び、生物学的衝動と社会党統制の矛盾などに関して注目を集めた。」

    「よろしい。もっと頻繁に君を指すべきだな。」

    「先生が望むように!(ご自由にどうぞ)」

    どんな命令でもね、ミスター・サタン。私の魂はあなたのもの、他の…僕は時計の時間を確認して小さくうなった。なぜこの地獄のような土牢では時間が逆方向に進むのだ?本当に煉獄のようだ。

    ルイス先生の心理学クラスは、2時間の講義がまるで4時間続くような感じで、いつも金属臭やカビ臭がするようだった。そのカビ臭は、きっとルイス先生が少なくとも300歳くらいあるからで、金属臭は授業間に血を飲んでいるからだ。たった一つある窓は東側の壁にあり、小さくて高いところにあるので、一日のこの時間は憂鬱でしかない。ブーンと低くうなるライトが時折点滅し、まるで皆がホラー映画の中にいるような感覚を与える。

    質問されたり答えたりしない限り、教室は墓のように静まりかえっていた。学生たちは早くも、ルイス先生に無意味にわめき散らされるより沈黙を好むようになった。学校初日に面白いと思った彼のしわがれたブリティッシュ訛りは、急速に、聞くのが苦痛となった。哀れな少女エイミーは、彼の声で気が遠くなるため、一週目にしてクラスを放棄した。彼女が女性であるがゆえに、彼がどこかの言語で罵ったことが、むしろ後押しをした。

    教室の中で最も興味を起こさせるのは机に書いてあるストーリーや落書きであるが、学期が進むにつれて、恋バナや漫画のような落書きが少なくなり、殺人の描写や計画がどんどん増えていく。いくつかの興味深い実験の設計は、反社会的人格障害を研究した時から残っている。私たちは明らかに責任のある大人で、研究にもとても献身的である。

    きっと私は再び眠りに落ちたのだろう。次に覚えているのは、誰かに揺さぶられていたことだ。起き上がると、僕の彼女と二人きりだった。

    「やぁ!ヴィー」

    「ドラキュラに捕まったのかと思って心配したのよ!」

    僕は立ち上がって背伸びをした。ヴィヴィアンは一つ年上の23歳で背丈が173㎝ある。彼女はとても親しみやすく、暗赤色の髪は長くて艶やかなストレート。それは、彼女のライトグリーンの瞳でさえ穏やかにし、磁器のようになめらかな肌をさらに完璧にした。彼女はモデルのように背が高く、スリムなボディを持っていたし、デニムのジャケット、ブルーのジーンズ、ハイヒールブーツといつも身に着けている迷彩柄のタンクトップが良く似合う。

    「お腹が空いていないかい?」

    と尋ねた。

    彼女はため息をつき、

    「うん、食べる時間さえあればね」

    と言った。

    僕はバッグを手に取り、彼女の肩に手を回し、外へ歩き始めた。

    「新入生が押し寄せる前に図書館に寄らなきゃいけないの。でも、何か持ってきて。今夜来るから、きっとその時は腹ペコだわ。」

    ヴィヴィアンは宝に関する全てについて驚いていた。彼女は、美しく華麗で有能である。これらの表現に一つでも合う女性とは違い、彼女は非常に親切で謙虚なうえ、献身的である。

    僕はうなずき、キャンパスにある、シンプルだけど幅が広くて高い大きな滝へ向かった。

    「そこにいくよ。」

    彼女の笑顔がほころぶ前に、数秒キスをした。滝の音が突然乱れたが、僕たちは気にしなかった。

    「じゃあね。」

    彼女はジャケットをぴったり合わせ、立ち去った。その分厚いジャケットは、僕が冬を嫌う理由だった。僕はキャンパス内の自分のアパートへゆっくりと歩いた。

    僕はドアのかぎを開けて部屋に入り、ドアを閉じて2歩だけ進んでソファーに落ち着いた。僕のアパートは、気が滅入るような僕の少ない収入の表れだった。ファストフードレストランの仕事が金持ちになる最良の方法ではないと、誰が推測しただろう。

    僕は暗闇中で手を伸ばし、手探りでリモコンを探そうとした。それを見つけ損ねた後、ため息をついて頭の後ろに手を置いた。テレビのスイッチが入り、それを見ていた。ニュースだった。僕はホラーショーでも気にしないが、起き上がってコーヒーテーブルからテレビのリモコンをひっつかんで、チャンネルを変えてアニメにした。

    大きな灰色の猫がテーブルの上に飛び乗り鳴き声を発した。それは鳴き声というよりも何かを要求している、構ってほしいという声だ。

    「やあ、ドリアン。狩り仲間はどうした?」

    彼を撫でてあげると、気の無いような感じでゴロゴロと鳴いた。

    「今夜はヴィーがくるから、身なりを整えろよ。」

    僕は立ち上がってキッチンへ向かった。明かりのスイッチを入れた数秒後、少し間があって、明かりがついた。

    70年代のミントグリーンのミニ冷蔵庫が、不安定に置かれた古い電子レンジの下でブーンと音を出していた。その前にある長いカウンターの真ん中に金属のシンクボールがある。その片方には少なくとも半分の時間動いていた電気フライパンがあり、反対側には月に数回使われていた電気ポットがある。

    僕はドリアンの金属製フードボールを手に取り、冷蔵庫の上の戸棚から彼の餌を引っ張り出した。普段、彼の餌を取り出すとき、待ちきれずにしびれを切らしてウロウロしているのだが、エサをボールに入れて床に置いたとき、彼は見当たらなかった。私はドアまで行き、リビングの明かりをつけてみた。彼はカウチの上で背を丸め、毛を逆立てて、フシャーッとうなり声をあげ爪をむき出していた。

    「いったいどうした?母さんかい?雷は聞こえないし、硫黄の匂いもしていないぞ。」

    ドアが不吉な音をたて、夕暮れどきで部屋はうす明るかったが、部屋の入り口には誰も、人もヴァンパイアも、立っていなかった。僕は慎重に外へ出てみた。

    僕のアパートがある団地は、安いところよりは間違いなく安全だし、大学に非常に近かった。近くに住むということは、車が必要でないということだし、どっちにしても自分には手の届かないものだった。奨学金や安定した職と社交生活の欠如のおかげで、僕は数少ない、無借金の生徒の一人だった。僕のラーメン生活は特に安全面において価値があった。なぜならば、攻撃や嫌がらせをされることなく、小さな芝生エリアにいたり、廊下に出て歩いたりすることができたからだ。地上階であることも、エレベーターが無かったので、間違いなく利点だった。

    風がうなっており、僕が戻ろうとした時に、何かが僕の注意を引いた。小さくて薄い黒い本が僕の階段の前にある芝生の上に何気なくおいてあった。それは一見無害に見えたが、僕はそのままにしておいて早く部屋の中に戻りたいという衝動にかられた。それはホラー映画のように、まるで邪悪な場所にいるか、邪悪な何かに見られているような感覚だった。そして、自然に、僕はそれを拾った。

    僕は鳥肌が立った。もちろん、必ずしも悪いものではなかった。柔らかい黒皮のカバーにはタイトルや書き込みはなく、薄っぺらなものではなかった。ページが非常に硬く冷たいうえに、それらの殆どが白紙であった。最初の10ページには、何か書いてあったが、それはストーリーや日誌ではなく、代わりに、言葉に見えるようなものが書き込んであった。いくつかの単語は見慣れた言語であったが、殆どは非常に奇妙なものだった。僕は本を閉じ、辺りを見回し、中に戻った。

    僕が入るなり、ドリアンはベッドルームへ飛んで行った。僕は、彼がどれだけ奇妙な行動をとっているか、うるさく言うのもなんだから、小さいテレビの横にある本棚に本を立てた。

    僕の空っぽの胃がもつれそうでうなっていたので、コートを取った。僕はあの不穏な本を振り返ってみることもなく、そしてまた、なぜあの本を保持したのか疑問に思わなかった。

    数日後には、それについて完全に忘れていた。

    *         *         *

    僕たちは死んだらどこに行くのだろう?いい子であれば天国に行けると言われたけど、僕はずっと、死後の世界の概念は難しいと思っていた。僕は決して人を傷つけたり、盗んだりせずに常に正しいことをし、人の気持ちを傷つけないため必要な時だけ嘘をついたが、そのような素行は主観的だった。多分、僕のあからさまな行動は、地獄で場所を得ることになっただろう。そして、天国で嫌みったらしくできなければ、そこにもなじめないだろう。

    残念ながら、僕は自分の人生のかなり早い段階で、自分には特に刺激的なことは起こらないだろうと気づいた。少なくとも、自分が教えられた道徳的な境界の内側にいる限りではね。僕は目が覚めると、学校や仕事へ行き、寝床につくだけで、生活の中で何一つ楽しみがなかった。

    *         *         *

    「死亡者数が増加するに伴って、人々は自己防衛に走りつつあります。この10年間でダラスの犯罪率は最高に達しています。まだ調査中ではありますが、当局はダラスとフォートワースの警察署で起こった火災は、放火が原因であると考えています。銀行強盗をしようとした二人が逮捕されました。しかし、彼らは一緒に働いているわけではなく、同じ銀行を選んでしまったため、目撃者から目を離さぬよう言い争っていました。また、彼らが襲おうとしていた銀行は、当時6人の当番警察官によって調査されていたので、不利な立場にありました。」

    他の日があっただろうにと、冷笑を堪えるのは難しくなかった。バカ者たちが愚かな過ちを犯し、捕まってしまうのは面白いと思った。しかし、今回はテレビを消すか、少なくともミュートにしたかった。

    頭の中で色んな単語がグルグル無意味に混じりあい、鈍痛で頭がズキズキする。僕の頬にあたるカウンターのコールドラミネートが心地よく感じられたが、騒音の壁が押しよせる圧力で窒息しそうな感覚は消えなかった。熱っぽい暑さで汗だくになり、とても不愉快なかゆみと動悸、耐え難い吐き気と脱水症状を感じた。テレビの近くに座るんじゃなかった。でも僕のいつもの席には誰かがいて、僕には動く力さえ残っていなかった。この枯渇状態でカフェテリアへ来るのはいいアイデアではなかったが、僕はいつもそこにいることに気づいた。吸血鬼のような僕の心理学の先生は、きっとそのような公共の場所で僕を探さないだろう。

    「やあ!」

    ヴィヴィアンが隣の席に座ろうとしたとき、僕は彼女を見ていなかった。彼女は

    「大丈夫?」

    と聞いてきた。僕は一度立って、座り直し、安心感を与える笑顔を作ろうとした。自分の席に座りなおす前にできる、最良の事だった。

    「あ!もう三時なの?もう行かなきゃ。」

    と、彼女は時計を確認しながら、椅子から飛び上がった。

    いったいどこからそのような力が湧きバランスが取れたか分からないが、僕は手を伸ばし、彼女が消え去る前に手首を掴み、引っぱって自分のひざに座らせ、彼女の時計をいじり始めた。

    「大丈夫だ。昨日はサマータイムだった。」

    僕は時計を合わせてテーブルの上に置き、彼女を膝の上から立たせたとき、彼女が大量の資料を持っていたことに気づいた。

    「忙しいのか?」

    「そうなの。どうやら裕福な人たちが引っ越してきたことでトラブルが始まって、ヴァンパイアのような弁護士が仲裁に入ってお金を獲得したらしいの」。ヴィヴィアンは弁護士のアシスタントだった。「だけど、すぐにそうなるほど悪くはないわ。」

    「なぜ?なにが起こるの?」

    と聞いた。彼女は、僕がまるで馬鹿げたことを言ったかのように見つめたが、別に文句は言わなかった。また、僕が知る限り、僕の脳のウェルニッケ野は燃え尽きていたので、実際には自分が何を言っているか分からなかった。

    「まあ、この殺人事件の波とどんどん近づいてくる犯罪で、どうやら私の仕事は忙しくなる一方だわ。」

    「え?殺人事件?犯罪?何のことを言っているの?」

    いや、確かに思考回路が鈍っているのは分かっているが、今日は本当にハードな一日だった。月曜日は、良い日であっても、テストなどに要した5時間、ウインナー詰めや小論文を書く作業が続き、僕の左脳は煮え滾っていた。仕事モードのヴィヴィアンと話を続けようと思っても、目を閉じたままルービックキューブの面を揃えようとしているのと同じだった。

    彼女はため息をついた。

    「月曜日のあなたは、本当に使えないわね。それについては、ノンストップでニュースに出ているわ。殺人事件が急増していて、犯罪もどんどん近づいてきているのよ」

    と、彼女が言った。僕の表情は上品さとはほど遠いものだと分かっていたが、顔や口の機能をコントロールすることが出来なかった。

    「どれも死因が同じなの。」

    「そうなの?」正しいようには聞こえなかった。

    「そう。どれもが死亡事故なの。」

    「それがどのようにして殺人事件になるのか、もう一度言ってくれないか?」

    僕はまだボーっとしていたが、ヴィヴィアンは自分の考えていることを止まることなく話し続けるタイプの人だった。残念ながら、彼女がいつそれをやっているのか、僕には判断がつかなかった。

    「確認された殺人事件数はそう変わらなかったし、相互関係があったとしても、それは恐怖に起因するかも知れないものだったわ。それは、誰もが何が起こっているか見ることができるからよ。火災からビル崩壊や交通事故まで、全てに渡る事故が急増していた。これは追跡不可能なだけで、偶然とは言えないわ。全て同じだけど、人々は責任を取らされ、お金があふれるわ。あなたのテストはどうだったの?」

    話題が変わったことに気づくのに数秒かかった。

    「どのテスト?」

    「全部よ。」

    「解剖学のテストは良かったと思うし、心理学のテストもよかったと思う。

    欧米史は、ひどい目にあった。そしてもう時間が無くなっていたので、生物のテストはその問題さえろくに読めなかった。」

    「科学のテストはどうだったの?」

    僕は自分の時計を確認した。

    「それはそれとして、僕は君が入ってきたとき、仮眠をとろうとしていたんだ。」

    「カフェテリアで仮眠しないで家に帰って、パンを食べてコーラでも持って行ったら?」

    僕は座りなおそうとして、再び吐き気の波に襲われた。

    「僕はここから離れないよ。テストのどれかを持ってきてくれないか?」

    彼女は、既に立って、僕を立たせようとしていた。普段は彼女に抵抗するところだが、しない方がいいと思った。

    届かなくなる前に自分のカバンを掴むことができた。彼女は軽くキスして、僕を押した。部屋に着いたとき、運よく、次の講義に出る前に腹ごしらえする時間だけはあった。彼女が言っていた事故については、ずっと後になるまで気にしなかった。

    *         *         *

    誰かが玄関にいた。僕は目覚まし時計を見てベッドから火がついているかのように飛び上がった。もう夜の7時で、30分仕事に遅れていた。寝ている間に目覚ましのアラームを止めるこの僕の癖は、きっといつか職を失わせるだろう。僕はズボンを掴んで、自分のダブダブの黒いパンツの上から引っぱり上げ、ドアのところについたときにシャツを着ようとしていた。半分寝たような状態で、ドアに出て、しかも仕事に遅刻しているなんて、惨事のレシピのようなものだった。つまり、僕のシャツには4つの穴があったので、イチかバチかの動作だった。

    ドアノックの音は軽く、自信がなさそうだったので、かわいい女の子がいるものだと予期していた。ところが、そこにいたのは、男だった。

    彼はもじゃもじゃのダークブラウンの髪で髭はなく、私が今まで見たなかで最も暗い茶色の目をしていた。彼の肌色はあいまいな色で、人種を特定するのが困難であったが、年齢は30代前半か半ばくらいだと思った。背丈は、僕より12㎝ほど高い188㎝くらいで、スポーツマン体型だった。でも、彼の洒落たスタイルからは、それらに気づくのは難しかった。男はライトブラウンのチュニックに同じラフな素材で作られただぶだぶの黒いズボンと頑丈なワークブーツを身に着けていた。彼の右肩には、上部で縛り付けられ、腰のあたりにぶら下がった黒い皮の細いバックがあった。彼は明らかに大学の学生だった。

    彼はタイトな作り笑いをした。

    「こんにちは、私はエドワードです。」

    もちろん、そうだった。彼の声は野生的な見かけとは見栄えとはうって変わって、驚くほど穏やかだったが、かなり低く、彼のなまりはアジア系に聞こえた。彼の自信ありげな口調は、まるで疑うことを知らない動物を誘惑しようとしていたかのような穏やかな物腰がうわべであるように感じた。

    私は、

    「そうですか。でも、私は無神論者なので今日は聖書もいらない!」と、言った。

    彼の笑顔は混乱してたじろいだので、もしや彼は聖書を販売しているわけではないのではと閃き、一つため息をして

    「何の用ですか?」

    と聞いた。

    「私の新しいご隣人に会いたかっただけです。」

    今、彼が言ったのは、

    「会いたかった?」

    それとも、

    「食べたかった?」

    どっちでもいいや。この男は、プレデターのように見えた。どちらかというと、小児性愛者の類ではなく、羊ファーム内のオオカミのような感じだ。私に構わないで、ただメニューを見ているだけだ。

    「そうか、でも今は仕事に遅刻しそうなんだ。知り合えてよかったよ。じゃあ、また!」

    ドアを閉めようとしたが、彼に阻止された。エドワードはもう作り笑いをしていなかったし、僕を見てもいなかった。その一方、彼の怒りや睨みつける目は私をふるい上がらせた。普段、ルイス先生以外にそういうことをされたことが無かった。それから、彼が視線を私に戻した時、彼の表情が冷たくなっていた…私の体の全ての臓器と共にね。

    「やっと君を見つけた。」

    と彼は言った。私の体は激しく震えた。僕を食おうとしているわけではなかったが、誰よりも精神異常者に感じた。彼は、少なくとも、ルイス先生より先に僕を捕獲した。

    僕は、あなたが探している羊じゃないです。彼が僕を押しのけて本棚の方へ向かったとき、僕は何かわけのわからないことを言おうとしていた。僕はそれが彼の視線の焦点であったと気づいた。彼は小さな黒い本をつかんで、それをめくり始めたが、調べるのを止め、僕を見つめて眉をひそめ困惑していた。

    「君はここに自分の名前を書いたのか?」

    「なぜ書く必要が?」

    と、私の頼りない声が出た。

    「それでは、あなたは自分が何を見つけたのか知らないのか?」

    彼は下に目をやって、

    「いや、知らないと思う。」

    僕は彼が出ていくよう、静かに、懇願するようにドアを見た。彼はそうしなかった。

    「エドワードさん、僕は仕事に行かなきゃならないので、本当に出て行ってください。」

    彼は、

    「それよりもっと重要なことがあるのだ。この本について、他に知っている人はいるのか?」

    と、穏やかな表情で聞いた。

    「いや、それは数週間前から持っているが、数日前から忘れていました。それはいったいなんですか?ギャングの家宝の類なのですか?」

    「君が嘘をついてないことを願うよ。彼らは、これと接触した君や他の者のニオイを嗅ぎ付けることができる。君には残念だが、彼らはすぐに君に気づき、再び去る。そして殺害は止まるだろう。」

    彼の声は穏やかでゆっくりしていたが、厳しくなった。

    「いったい何のことを言っているのですか!?」

    僕の腹立たしさでライトが激しくフラッシュした。

    「君は…」

    彼は、一瞬、頭上のライトを見た。

    「君がやったのか?」

    と、聞いた彼の声は、突然穏やかになった。

    「いったい彼らとは、なんのことで、なぜ僕にとっては残念なのですか?」

    「この本は、おそらく、偶然によって君の手に渡ったようではない。」

    僕は、怒っていた。彼が独り言ばかり言って、僕の質問を無視していたのが気に食わなかった。僕はドアを閉めて答えが出るまで彼を挑発して怒らせぬよう落ち着こうとした。彼は、ため息とともに本をコーヒーテーブルの上に置き、僕の葛藤を認めた。

    「君は獣に後を追われていることを知っているのか?」

    僕はびっくりした。

    「獣ですって?なんで?」

    彼は僕が言ったことが聞こえなかったかのように、ただ立っていた。

    「いいえ、知りません。」

    「それらは、3体いる。奴らがなんであるか分からないが、その本が欲しいらしい。奴らはこの地域まで追跡してきているので、すぐに、君を見つけて、更に、本を見つけるまでそれの匂いがする者は誰であれ殺害するだろう。ここは、本の匂いがする。」

    「それで、あなたはただ本を取り上げて、安全な場所へ逃げるのですか?」

    「そのつもりだったが、今は分からない。君がウィザードならば、多分その本を持っていくのは、間違いかもしれない。」

    まさかそういうこと言われるとは思っていなかったので、躊躇した。僕は実際に無神論者ではなく不可知論者なので、その概念を拒絶するまでの宗教的根拠がなかったが、とんでもなく動揺した。そして、魔物たちがこの本を追跡していなければ、この男もいなかっただろうと思った。僕には、今まで興味深いことに遭遇したことがなかった。

    その一方、万一に彼が真実を言っているとしたら…

    「僕がウィザードでなければ、あなたはこの本をもって去るのですか?ここで人々を殺害するのを止めるまで、どれくらいかかるのですか?」

    「この本が無くなり、それの匂いがする者すべてが無くなったら、止まるだろう。君は魔法使いなのか?」

    僕の最初の本能で彼を笑い飛ばそうと思ったが、黙っていた。僕がそうだと言ったら、彼は何をするのだろう?

    「私の質問に答えなさい!」

    僕は混乱した。

    「それは、愚かな質問です。ウィザードのようなものは、存在しません。」

    エドワードはうなずいた。

    「では、今出ていく。」

    僕は更にイラついて、ドアに向かった彼の前に立ちはだかった。

    「やつらがそんなにこの本を欲しがっているならば、それを利用して彼らから免れることができます!」

    「この本を奴らの手に渡ることはさせない。それを守るのが私の仕事だ。」

    と、彼は主張した。

    彼の屈託のない声が、僕を怒りに震えさせた。とうとうライトが消え、僕たちは暗闇の中にいた。僕の怒りは明かりと共に消え、光を取りえるためにドアを開けた。エドワードがニヤニヤ笑っていたのを見て驚いた。

    「だから、君はウィザードだ。君がそれを認めて受け入れたら、私は君から本を取り上げることはできない。」

    自分の心の一方では、そこに彼をおいたまま、ドアの外へ出て仕事へ行きたかったが、もう一方では、自分のベッドルームへ戻ってもっと寝たかった。もう自分の時間を彼に与えるつもりはないが、僕が止めようとする前に言葉が口をついて出た。

    「もし僕がそれを受け入れたら、次には何が起こるのですか?」

    「人生において、君の最大の優先順位は、この本の保護になる。しかし、その本の保護は私の目的でもある。君が一人でこの本を完全に守ることができるようになるまでには数年かかるかも知れない。だからそれまでは、私が君と本を守るしかない。言い換えれば、君は、私の魔法の弟子になるのだ。」

    僕は彼を見つめた。何か言おうと思ったが、何を言ったらいいか分からなかった。魔法。この男は、きっと正気を失っている。ライトは魔法とは何の関係もなく、電力会社が僕を混乱させたいだけだろう。しかし、僕は物事には必ず説明があると思っている。最近の殺人事件についてもまた説明があるかもしれない。

    「この本はどのように魔法と関係あるのですか?なぜその野獣たちはこの本を追っているのですか?」

    「君の名前がこの本の中にない限り、君に伝えることはできない。」

    彼は本を開いたまま立ち上がった時、僕がサインするためにだと悟った。悪魔は僕がサインするのを望んでいる。僕はエドワードがくれなかった答えを、その本がくれるのか慎重に考えた。

    彼はイライラしながら、

    「私を待たせるのは失礼だぞ」

    と言った。

    僕は頭を横に振った。

    「僕は、自分が何に首を突っ込んでいるか分からないままサインはしません。」

    彼は本を閉じ、自分のカバンの中の似たような本の横に入れた。私の答えを期待していたかのように、

    「君の非常に賢明なところだ。」

    と言った。

    「それはまた別の本ですか?」

    「そうだ。私はこの本のガーディアンなのだ。」

    彼はその別の本を、カバンの奥に隠す前に、ほんの少し引き出して見せた。

    「君が見つけた本のガーディアンは死んだ。私はそれを集るように命じられていた。そして新しいガーディアンを見つけることになっていたが、今、それは既に一人選び出したようだ。」

    「あなたはそれが独自の人格を持っているかのように話しています。」

    「そうなのだ。君が選択することについて話す前に、三つの事を考慮してほしい。一つ目は、この本とその世界は魔法に関するものであること。二つ目は、この本の後を追っているのは非常に強い生き物たちであること。そして三つ目は、私はとても短気であるということ。君が訳のわからない本にサインすることに気が進まないというのは気に入ったが、私たちがここを離れるためにも、君は急いで決断しなければならない。」

    「それでは、説明をしてください。」

    彼がイライラしてため息をついたとき、僕は時計を確認した。

    「ああ、くそっ!仕事に向かいながら説明してください。でないと、生きたまま茹でられちゃう」

    エドワードは今まで以上に混乱した視線を僕に向けた。

    「行きましょう!」

    彼は僕に続いてドアの外へ出て、僕はドアの鍵をかけた。

    僕が急ぎ足でキャンパスを横切るのにエドワードは何の苦も無くついてきた。

    「君は、本当にこの本と関わってしまっていいのか?」

    「僕はもう既に巻き込まれているのでしょう?そうしなければ、例の野獣たちに殺されるでしょう。」

    「奴らよりもはるかに悪いことだってある。」

    僕は止まって振り返った。

    「どのような?まって、あなたがさっき言った本の世界とはどういう意味ですか?」

    彼はしんぼう強く穏やかな表情で僕を観察した。

    「私は、君に全て説明する。だが、目撃者がいないところが好ましいと思う。」

    と、彼は言った。それは、典型的な平日の夜の人ごみだったが、僕たちから20フィート以内には誰もいなかった。

    「それに、君は、本当にこの本と関わってしまっていいのか?」

    僕たちは再び歩き出した。

    「あなたは時間を無駄にしたくないものだと思いました。」

    と、僕は言った。

    「自分の未来を変える可能性のある何かを決断する前に考えることは、時間の無駄にならない。私は単にここに長居したくないだけだ。君にすぐ決めてほしいだけだ。私は、ここにいる限り、問題の本と私自身の本が危険にさらされているので、かなりのプレッシャーがかかっているのだ。」

    「あなたは何処から来たのですか?」

    「君がきいたことが無いところからだ。」

    「そこでは、あなたの服装は一般的なのですか?」

    彼が眉をひそめて自分の服を見下ろしたとき、失礼なことを言ったと感じた。 私達は、ファストフードレストランに到着し、黄ばんだ歯が笑いかけてきてまるで僕の少ない給料をあざ笑っているようだった。

    「とくに、変ではない。この世界を訪れてから長い時間が経っているからね。」

    と、私たちがドアに着いたとき、やっとエドワードが答えた。

    「どういう意味ですか?あなたはこの世界の者ではないと言いたいのですか?」

    と、僕は、疑い深く聞いた。

    「言うまでもなく。」

    ああ、確かに、聞いた僕が愚かだった。

    「この本は、一つの世界だけしか表すことができない。だから、私の世界は明らかに別の世界なのだ。でも、正直なところ、他の全てに比べると、君には珍しいのではないか?」

    この宇宙人は正しかった。

    「僕のシフトが終わったら来ますから、どこか、席についていて下さい。今日は誰かのシフトをカバーしているだけなので、数時間で終わります。」

    彼は何も言わずに座ったが、焦りがにじみ出ていた。僕はカウンターの内側に入った。

    「やあ、ジェアン。」

    と言った。ジェアンはレンジの後ろから顔をのぞかせ、微笑んだ。

    ジェアンは17だが、15歳の体つきをしていた。彼女の小さくてスッキリした体は、彼女の個性とよく合っていた。そして、プラチナブロンドの長いふわふわの髪は、彼女の若々しい顔をつつんでいた。彼女の瞳は深みのあるブルーで、肌色はティーンエイジャーにしては、色白だった。彼女は、トラッカー(トラック運転手)のような食習慣にもかかわらず、非人間的なエネルギーが彼女の動きを普通の人間のようにさせず、さらに、彼女の体を健康的に保った。

    「マルコムが君を探していたわよ。彼には、あなたが急遽、歯医者に行くことになったと、伝えておいたわ。」

    「ありがとう。君が先週言った天然痘や、その前の週の狂犬病よりはましだよ。」

    彼女はレンジへ戻り、再びイヤホンを付けた。彼女が踊りだすと、丈の短いスクールスカートは直ぐに揺れ始めた。ジェアンは、面白い子だった。彼女は賢すぎず、気がきいて、ワイルドな想像力の持ち主で、そして彼女は僕がやったある物事が好きだった。残念ながら、彼女は人々を幸せにしようと忙しかった。彼女は、自分がやっと高校生で僕は大学生だということを忘れがちなので、いまだに彼女と働くのは困難だった。僕には彼女よりずっと年上のガールフレンドがいるにもかかわらず、今でも彼女は僕を騙してデートさせることを人生の目標にしているようだ。

    *         *         *

    三時間苦労した後、やっとカウンターの外へ出て、自動車に興味をそそられたように思われるエドワードの前に座った。彼は、フライドポテトの油が飛び散り火傷した僕の手にクリーム塗るのを観察していた。毎回フライドポテトが僕をあざけるようだった。

    「では、説明して下さい。」

    「君は本当に確信しているのか?」

    「あと一時間もすると、本のハンターたちにこの悲惨さから逃れさせてくれと頼みそうです。気を失う前に、早く話してください。」

    「私は気を失ってほしくないのだが。」

    彼は、僕に注意を戻す前に、再び一瞬だけ自動車を見た。

    「物語は歴史の授業のように開始するものだ。」

    おお、神よ!

    まるで、僕の考えを聞いたかのように、彼は

    「我慢しておくれ。」

    と、言った。

    「その昔、それぞれの世界は生きていた。12の神々たち。イアドナが12の世界を引き継ぎ、世界と生命が維持できるようにした。そして、各世界に本を一冊創り、それらに真の名前を書き込んだ。ここまでは、理解できるか?」

    「12の神々、本、真の名前。解った。なぜ?」

    彼は瞬いて

    「なんだって?」

    「どうして彼らはその本が必要なのですか?彼らは神ですよね。」

    と言った。彼は、第一印象とは逆に、オープンで正直に笑った。

    「もし私が証拠を持っていたとしても、私が話したことは、君の世界では少数の人々しかのみ込めないことなのだが、君は神々の動機を知りたいのか?それらの本は…」

    彼は、言葉の事を考え、躊躇した。

    「それらは、世界を表し、守り、その力をコントロールするのだ。」

    僕は詳細を聞こうとしたが、彼が手をあげた。

    「お願いだから、最後まで質問を我慢しておくれ。」

    「やってみます。」

    エドワードはうなずいた。

    「イアドナの一人、ヴレチアルは、自分の世界が十分に強力でないと判断した。彼は、イアドナの中では最も危険、精神異常で悪意のあるものだった。一方、兄弟のアヴォリは優しいが、騙されやすかった。ヴレチアルは、アヴォリの本を盗み、自分以外の書いてあった名前をすべて消した。世界は彼のものになったのだ。その他の神々は恐れて、それぞれの本を各世界の戦士と共に隠した。」

    「各世界に一人、それとも数人?」

    「各世界に一人しか戦士がいない。そして、それらの戦士たちは、強力な精神を持って生まれたのだ。私たちは神々にノクォディと呼ばれているが、一般的な名前は、ガーディアンだ。ヴレチアルが所有している二つの世界はアウトランドまたは、外世界と呼ばれている。ガーディアンたちのパワーは彼らの子どもたちに受継がれ、彼らはウィザードとして知られている。誰しもマジックはできるけれども、この才能を自然に持って生まれたすべての人は、真のウィザードで戦士の子孫なのだ。」

    「では、あなたが思っているように、僕がウィザードならば、僕はガーディアンの子孫なのですか?」

    「そうだ。そして君がこの本にサインしたら、今よりも更に強力なパワーを得ることになる。いかなる人でも、イアドナの本に名前を書いたら、その世界の記号でマークされ、本なしで移動する方法を習得する。そして彼らの力は更に増し、本に名前が書いてある限り、この世界ともつながっている。また、その不思議な力がこの世界とつながっていることによって、この世界を守る責任も少し課せられる。彼らの名前は、彼らが死んでも本に残るが、彼らに何が起こるのかは、誰も知らないのだ。」

    「そのパワーを使えなくするために本から人々の名前を消すことはできるのですか?もし、それを乱用しようとしている場合のことですが。」

    「イアドナかガーディアンの一人であれば、それらの本に書いてある名前を消すことができるが、消されたその人は消滅してしまう。」

    「もし、誰かが僕の名前を書き加えたら?」

    「人は、自分の名前しか書けないことになっている。偽造できない契約書にサインするようなものだ。」

    「では、この本に僕が自分の名前を書いたら、僕はガーディアンとなり、各世界に移動することができるようになるのですか?」

    エドワードは頭を振った。

    「君は、君の名前が書いてある世界にのみ移動できるのだ。全ての本に君の名前を書き込むことができれば、君はそれらの世界へ移動することができるようになる。それらの本はいろんなところに広がっており、隠されているので、それを行うことは困難だろう。ところが、単一のガーディアンがいるヴレチアルの本以外、どの本にも、ガーディアンではなくてもサインできる。」

    「それでは、この本は地球のガーディアンの物ということなのですね?」

    「そうだ。」

    「この本のガーディアンはどのようにして死んだのですか?」

    「最近、ヴレチアルが再び攻撃したのだ。彼は、残りの本を追跡するためにとても力のある手下たちを送ってきたのだ。やつらは、ガーディアンの一人を見つけたが、彼は殺される前に本を処分したのだ。」

    「彼は、僕が見つけた本のガーディアンだったのですか?地球のガーディアン?そして、手下とは、僕の後を追っている魔物のことですか?」

    「正確には、違う。ヴレチアルに奉仕するマグスたちが、地球の前のガーディアン、ロネスを殺したのだ。私の知る限りでは、この本を追跡しているのは手下ではなく魔物で、それも、それらの3頭だ。ロネスが殺害されたとき、神々は私を地球へ送り込んで本を回収し、次のガーディアンにふさわしい者を見つけるまで、守ることを命じたのだ。どうやら、一人作り上げる必要があるようだ。」

    「ちょっとまって。各世界へ移動するために本が必要とすると、あの何処からかやって来た魔物たちは、どのようにしてこの世界にたどり着いたのですか?また、その手下たちも、どのようにして来たのですか?」

    「そこが謎なのだ。神々は、本なしでは移動できるはずがないと否定しているが、なんの説明もしてくれなかったのだ。」

    「では、あの魔物たちは、匂いを追ってここにたどり着けるのですか?」と、聞いた。彼はうなずいた。

    「あの本が処分された時、新しいガーディアンによって発見されるために、エネルギーパルスを放出し始めたのだ。一度でも十分に近づくと、その本のパワーを、まるで香水のように追跡することができるのだ。そして、適切な人が現れて新しいガーディアンになるまで、その信号は途絶えないのだ。」

    「では、僕がその本にサインしてあなたの魔法の弟子になった場合、どうなるのですか?」

    「君は、まず、君の教育を修了する必要がある。しかし、ここはそのための勉強や魔法を実行するには、適していない。君は、私の世界へ来て私と同居しなければならない。」

    僕の目は大きく見開いた。

    「地球を去れと言うのですか?僕が唯一知っている場所なのですよ。大学や仕事を辞めるのはかまいません。精神異常者のような心理学の教授に二度と会えないのは我慢できるが、僕のガールフレンドは?」

    「ねぇ、お友達を紹介してくれないの?」

    突然、僕の横にいたジェアンに聞かれた。僕は地球を去らなければいけないかも知れないという考えに包まれていたので、彼女の甘くて穏やかな声にもかかわらず、飛び上がった。僕が彼女の方に振り返ると、エドワードが立ち上がった。

    「ああ、彼はエドワード。エドワード、彼女はジェアンです。」

    ジェアンが手を出したとき、僕は彼が何をしたらいいのか分からないのではないかと、ばかげた恐怖に襲われた。エイリアンなどに合ったのは初めてだったのでね。彼がすっと手を差出して彼女の手をとり握手した時、ほっとした。「ハンバーガーをいくつか持ってくるよ。」

    僕は立ち上がりながら、言った。

    ジェアンはテーブルから一歩離れた。

    「いいえ、いいえ、私が持ってくるわ。座っていて。」

    そういってキッチンへ走って戻ったので、僕は元の席へ戻った。

    エドワードは、どこからか別のおてんばな娘が飛び出てこないか恐れているように、再び座るのに慎重だった。

    「君がおいていくのを心配しているガールフレンドは、彼女か?」

    「いいえ。でも、ジェアンには気をつけてください。彼女が何か欲しがるときは、とても厄介なので…、例えば、ボーイフレンドとかね。あなたの惑星の女性たちはどうですか?」

    彼は僕の肩の上から彼女を見た。

    「ああ、全て異なったタイプの女性がいるよ。君の世界の女性のように、彼女たちが怒った時には男性よりも悪質である傾向にある。全体的に、いくつかの点において分かりやすいことを除いては、私の世界と君の世界はそんなに違わない。」

    「どういうふうに?」

    僕は聞いた。ジェアンが戻って、ハンバーガーを4つ置いた。僕に一つ、エドワードに一つ、それと彼女自身に二つ。彼女が座る前に、彼女の携帯電話が鳴ったので、彼女はため息をついた。

    「あとでかけ直すわ。」

    彼女は立ち去り、僕は振り返ってエドワードを見ると、彼はうんざりしたようなしかめ面で開封されたハンバーガーを見ていた。

    「これは、なんだ?」

    僕はしばしば自分自身が疑問に思っていたことに、あきれた。

    「食べ物。」

    彼は僕を見た。

    「いや、本当に、これは何だ?」

    僕は自分の分を、手に取って一口食べた。彼は、どういうわけで食べ物が不味くなったのか、更にうんざりして見ていた。僕は口の中にあった偽肉とねっとりしたシュガーブレッドを飲みこんだ。僕は食通ではないが、ファストフードの1ドルメニューのバーガーは何やら気味悪いものだった。

    「あなたの世界の食べ物はどのようなものですか?」

    「食べられる。」

    「楽しそうに聞こえる。あなたの住んでいる場所についてもっと教えてください。」

    「まあ、君の世界のように賑わってはいない。私たちは自動車やガソリンを持たない。多くの場所には電気も存在しないと。それに…」

    「電気が無いのですか!?」

    僕は、つい大きな声で言いました。幸いに、私たちの話を盗み聞きするような客はいなかった。」

    「私の世界の人々は魔法を受け入れ、その大半が魔法を使うが、その魔法は電気に支障をきたすのだ。私達の世界の日常はもっと質素だ。そうは言っても、我々の技術は君たちのよりもはるか優れている。君の世界のように、学校や仕事もあるし、小さな村から大きな都市もある。しかし、大半が私のような人だ。私は、公共では働かないし、大きな森の中に小さなキャビンを持っていて、チビット以外、一人暮らしをしている。」

    僕は瞬きをした。

    「チビットとは、なんですか?」

    彼は笑った。

    「チビットは私のペットだ。クレーという鳥で、君の世界の鷹に似ている。」

    「どうして私の世界のことを知っているのですか?」

    「私は行く先の世界を知らずしては、行かない。私は数千年生きているので、君の世界について十分に学ぶ時間があった。でもそれは、地球のガーディアンにとても近かったからだ。」

    数千歳。では、彼はミスター・ルイスが子供のころ、既に生きていたのか。エドワードにとって数世紀は良かったようだ。

    「僕はてっきり数百年と思っていました。それで、結婚については?永遠に結婚しているのは、つらいのではないですか。あなたについてだけの話ですが。」

    「ガーディアン達は、子孫をつくること、特に別世界で混血を残すことを進められている。ガーディアン達だけは不死身だが、私の世界の人々は地球の人たちより長生きする。私の世界の結婚は、ある期間のみ、約20年に限られている以外は、こことそう違わないし、離婚は存在しない。」

    「では、あなたの世界では魔法はオープンに使われているのですね?」

    「そうだ。それに、尊重されている。多くのウィザードがこの地球でそのパワーをオープンに使っている・」

    「どうしてあなたは人間に見えるのですか?」

    「大半の世界が似たような形をしている。いろんなことを試した結果、神々は、この形が最も効率が良いと考えたのだ。実際に私の世界では個々の世界より前からこの形を保っている。ただし、私の種族の体は、私たちの世界に合うようになっている。私たちは、人間よりも多少密度が高いので、私たちのほうが重い。生存本能も私たちのほうが優れており、長いこと水や食料がなくても生きられる。私の世界の人々の平均寿命は、100年だ。もちろん、強力なマグスで、その力を賢く使える者は、数百年生きることができる。その他にも小さな違いがある。」

    「では、あなたの世界はより厳しいですか?」

    「いや。ただ、危険の種類が違うだけだ。私たちの技術は異なるので、それらに頼ることはできないし、大抵は魔法で対処する。少なくとも、魔法を使える人たちはね。私たちは、核兵器を持っていない。太陽を破壊する機械を持っているが、自分たちのためには使わない。」

    「では、宗教については?」

    「それはある。すべての人が神々と他の世界のことを知っているが、本のことは知らない。彼らは、人々が移動するのは神々の手助けがあってのことだと信じている。私の世界において、宗教はもうそんなに重要なものではないので、そのおかげで戦争もそんなに起こらない。ただし、私たちの習慣の多くは、古代の宗教に基づいている。」

    「あなたの世界には大陸や国々があるのですか?」

    「いや、この世界のようにはない。大きな島が8つあり、各島には王がいる。モキイ以外には、市民権や税金もないが、各島に学校などに使う資金収集のシステムがある。私の世界は、ここより少し大きくて土地も多いが、人ははるかに少ない。カンジイイとアノシイという島は、食糧生産には向いていないので、アノシイでは、特に商業や都市生活が営まれている。アノシイの大半のエリアでは魔法が禁じられている。カンジイイでは、拘留やバイオ実験に使われている。カンジイイは、避けたほうがいい場所だ。」

    「それは本当に賢い。有害なバイオ物質と悪い人たちを他の人たちと距離を置いている。あなたは、どこに住んでいるのですか?」

    「ショモディイ。天候の予測がつかないため他の島々より住人が少ないが、個人のスペースがより多く必要なマグスが多いところだ。」

    「どうしてあなたは英語が話せるのですか?しかも、略言まで。」

    「学ぶ時間がいっぱいあったのでね。」

    「病原菌は?この惑星の病原菌にやられなかったのは?」

    彼は、ただ笑った。

    「君は、神々がそのようなことを起るのを許すくらい無能だと思うのか?」

    彼は急に座り、僕たちは前に屈んだと気づいた。

    「では、空気については?」

    「エネプ、ムロ、ディオス以外は、どの世界の空気も、ほとんど同じだ。そこでは、空気がもっと乾燥して汚染されているし、私の世界よりも空気が薄いが、成分はほぼ同じだ。それについては、君は適応できるので心配しなくてもいい。理由はそれぞれだが、住人が地下で生活しなければいけない世界が3つある。」

    「正直に言ってください。あなたは、私が弟子になるのを望んでいます?」

    彼は眉をあげた。

    「本が…」

    「本が望んでいることは知っています。僕は、あなたが望むことを知りたいのです。」

    と、僕は言った。

    エドワードは、ため息をついた。彼は、三分ほどとても集中した表情になったので、すこし不安になった。彼は、まだ本当に僕の指導者になりたいか考えていないものと思った。時計を見て、彼と知り合ってまだ数時間しかたっていないことに驚いた。

    それでも、僕は意味不明であっても、彼が言っていることを信じているかのように理解できた。魔法は存在しないし、人間そっくりなエイリアンも確実にいないだろうし、ドリアンは僕が早く帰宅して餌を上げないと、きっと、すねてしまうだろう。でも、別世界に逃げてしまう考えは楽しかったし、僕はずっと魔法が存在するのではないかと疑っていた。多くの場合、僕のために不思議なことが起こっているような気がしたし、僕が怒ると周りが荒れた。もしかしたら、そう信じたかっただけかもしれない。

    エドワードが考えを整理する前に、ジェアンが戻って来てにこにこしながらテーブルについた。

    「すみません。」

    彼女はエドワードのハンバーガーを見て、少し眉を上げた。

    「あなたはお腹が空いていないの?」

    「いや、本当に空いてない。」

    彼はもう一度立った。

    「君と知り合えてよかったが、もう行かなければならない。」

    彼は、自分のバッグを確認するように触り、僕のほうを見た。

    「君は来るかい?」

    彼が実際には、僕が本にサインするかどうか聞いていると分かっていた。僕は、作り笑いをした。

    「行ってほしいのですか?」

    すると彼はイラついたような視線を送った。将来自分の指導者となるものを怒らせるのは賢明ではないかも知れない。

    僕は立ちあがって彼の後を追いながら、エドワードの手つかずのハンバーガーを食べていたジェアンに手を振った。もしかしたら、次にいつ会えるか分からないので、きちんと別れの挨拶をすべきだったかも知れない…、でも彼女の事だから、食べ物欲しさに騙そうとしていると思われて、暴力的な抗議となっていたかも知れない。誰かが彼女と食べ物の間に入るのは、一度きりで十分だ。

    外に出たとき、エドワードが振り返った。彼の背後にあった月が彼の周りに不気味なアウトラインを描きだし、影が彼の顔を覆った。

    「私の最後の弟子は君より幾つか若かった。彼に色々教えるのを楽しみにしていたが、創造性のかけらもない恐ろしく退屈なやつだと分かった。もちろん、彼は私が言ったことを全て行ったし心から実践したが、適応できなかった。彼は学んだことを他の事に応用することができなかったのだ。」

    「その彼は今どこにいるのですか?」

    「彼は君たちが言う弁護士だ。」

    彼は目をそらし、キャンパスへ戻り始めた。

    「それがうまくいかなかった。私が教えたかったほど、教えられなかったし、彼は私を信頼したことが無かったので、私も彼の事を信用できなかった。彼の物事を見る目が変わっていたし、最終的に、彼は私が教えている方法が好きではなかったと決めた。だから、新たに弟子を取ることを躊躇していることを君には理解してほしい。しかし、私の他の弟子たちは、全て私の単独決定で選ばれた。でも、新たなガーディアンは一人もいない。」

    「僕が鈍くないとは約束できませんが、思われているように怠け者ではありません。僕は嫌みを言うし、朝は過敏になるし、いつも事故が起こるのを待っているようなものです。でも、僕はあなたに対してダース・ベーダ―のようなことはしません。少なくとも僕はないと思います。権力は完全に腐敗させるが、最も悪いのはあなたが無力なことです。」

    エドワードは急に固まって止まり、僕たちが二人きりではないと気がついた。しかし、車も人影もなかった。ヒューストンでは必ず誰かしら、周りにいるものだ。聞こえるのは、遠くから聞こえる車の警報器の音と風の音。

    「早く行こう。」

    彼の声はとても低かった。

    「やつらがここにいるのですか?」

    小さい声で聞いた。

    彼はうなずいた。

    「やつらは、もう匂いを追っている。」

    「僕を探していた人たちは?例えば…」

    僕は体中の血が凍ったようだった。ヴィヴィアン。

    「僕の彼女。やつらに殺されるのでは?」

    「そうだ。」

    彼は僕の本を取り出していたので、一歩下がった。

    「もう時間がない。名前を書かないなら、もう行かねばならない。」

    と、警告した。明らかに僕の協力不足にイラついていた。

    「同意する。」

    僕の声はいつもの声よりもやさしく、弱々しかった。彼は本を差し出したが、僕は受け取らなかった。

    「でも、彼女が安全と分かってからのことです。僕は本に選ばれたので、同意します。だから、あなたはその本を持って行ってはいけません。ヴィヴィアンを助けるのを手伝ってください。」

    僕は彼の唸り声に震えた。

    「君はその本を危険にさらすことになる。」

    「でも、ヴィヴィアンを助けることになります。」

    「何十億もの命を救うため、数人が犠牲になるのだ。」

    「危険にさらされる必要のない、なんの罪もない人々が犠牲になるのです!生きることは危険を伴います。時には、安全と思われる方法が間違っていたりする。小さいものでも守らなければならい。僕が言っていることを理解できますか?」

    彼の視線に焼かれるかと思ったが、本をバッグの中に戻したとき、彼の冷たい視線の奥深くにユーモアが見られた。

    「君は頑固な痛手になるようだな!?私たちが彼女のところまで行ったとして、やつらが来て、そこから出ていくのを見たら。もしかしたら、私たちがどこへ行っているのか見ないかも知れない。そうすると、やつらは、彼女を殺す理由がない。」

    「理由がない?それは、彼女を殺さないということではない!」

    と、僕は言った。

    彼はため息をついたが、否定しなかった

    「彼女が安全だと分かるまで、サインはしない。ヴィーが確実に安全だと分かるまで私を無理やり連れていこうとしても、だれも止める者はいない。」

    「私のことを信用しないのか?」

    「その理由がありません。」

    と、僕は言った。彼は怒っているようでも、満足しているようでもなかったが、考えているようだった。

    「いつか信用するかもしれないし、あなたの弟子になるのがどれだけ困難になるか想像が付きます。でも、まだ知り合ってから数時間しか経っていないし、やみくもにあなたを信用することは、できません。」

    「いいだろう。では、君はどのように彼女を助けようと考えている?」

    「やつらと戦いましょう。やつらを倒したら、あなたの惑星へ行きましょう。その頃には、悪い神様が本を探すために他の下僕を送り込むだろうが、ヴィヴィアンからは、僕のような匂いがしないでしょう。でも…、その悪者が神様なら、なぜ私たちを捕えるのに下僕が必要なのですか?彼は、私たちが何をするか、すでに知っているのでは?」

    「その本は、他の神々によって、彼から守られているのだ。彼は、他の本が誰の手にあって、どこにあるか分からないのだ。私は、もしかすると、神々から逃れる力は、その下僕たちの移動を可能にしているが、その力はあまりにも権力があるものには使えないのかも知れないと考えている。」

    急に、僕の潜在意識に引っかかっていたことがわかった。

    「ちょっとまって、この僕がサインする本が地球の物で、地球へのポータルだとしたら、それは…、なにもならないのでは?」

    と、僕は聞いた。

    彼は、自信ありげに微笑んだ。

    「あなたは知っていて僕がそれに気づくか見たかったのですか?」

    「君は、私の本にもサインしなければならない。君は僕の情報に足りないところをすぐキャッチする。それは、ガーディアンとして良い素質だ。」

    「あなたは僕を試しているのですか?」

    と、僕はショックを受けたかのように聞いた。僕たちは、新たなスタート地点にいた:疑いと絶望。なんて地獄だ。まるで自分と母親の間にあった確執を再現しているようだ。

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