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第2回 スクール・ドーハ

国連気候変動ボン会議の論点

2012年5月9日(水)
WWFジャパン 山岸 尚之

1. 概要
5月14日∼25日で開催される今年最初の国連気候変動会合は、形式上は5つもの会議が同時開
催されることになる。それぞれに議題が設定され、いつもの通り、議論・交渉される内容は多岐
に及ぶ。ただ、それらの中でも重要性が高く、注目も集まるのは、ダーバン・プラットフォームに
関する作業部会(ADP)であろう。2015年での新しい枠組み合意へ向けた最初の会合であり、
今後、どのように交渉を行っていくのかが議論される。

また、今回は5つの分野に関するワークショップも開催される。これらは、交渉以前の段階と
して、様々なアイディアを交換することを目的として開催されるものである。交渉ではないという
ことで、そこで出てくるものの位置づけは会議そのもので議論されるものより低くなるが、その
分、出てくるアイディアには有用なものも含まれるし、各国の発言にも、普段より踏み込んだもの
が出てくることが多い。

本稿では、今回の会議の論点の中で特に重要と考えられる3つに注目して、各国が本稿執筆時
点までに提出している意見などを元に整理をする。3つとは、以下の論点である。

1. ADPの作業計画

2. 削減目標・行動の野心のレベルの引き上げ

3. メカニズム関連の議論

表1:今回開催される会議と主な議題

会議名 主な議題

国別適応計画
SBI 36 損失と被害(loss and damage)
対応措置(response measures)に関するフォーラム   等

ナイロビ適応作業計画
REDDに係る技術的争点
SBSTA 36
対応措置(response measures)に関するフォーラム
CCS CDMに関するルール作成  等

1
会議名 主な議題

※ダーバンで合意できなかった部分が主になると考えられるが、合意があった分野
でも追加での議論の要求が出る可能性はある。以下は、ダーバンで合意できなかっ
た部分が列挙されたテキスト(FCCC/AWGLCA/2011/CRP.39)にある項目。
• 共有ビジョン
AWG LCA 15
• REDD(合意できなかった部分)
• 対応措置(response measures)の経済社会的帰結
• 技術移転(合意できなかった部分)
• 市場経済移行国に関する論点

削減数値目標(QELROs)
AWG KP 17 余剰排出枠の繰り越し
議定書の具体的な改正について(約束期間の長さ;先進国全体目標等)

作業計画
ADP 1
野心レベルの引き上げ

(出所) 筆者作成。

2. ADPの「作業計画」
2.1. 今回合意は無理→ドーハの目玉?
ダーバン・プラットフォームの設立を合意したCOP17の合意1は、「2012年の前半」に、そ
の作業計画を作らなければならないと述べている。しかし、この点について各国が提出した意見
を見る限りにおいては、2015年までの交渉プロセス全般について、作業計画の具体的なアイディ
アを持っている国は現段階では少ない。また、昨年の一連の会議において、議題設定自体が大き
な論争となったことにも顕れているように、国連交渉では、「何を議論するか」に関する議論自
体が大きな議論となることは珍しくない。少なくとも、今回のボン会合で2015年へ向けての作業
計画が採択されると予想するのは楽観的過ぎるであろう。おそらく、次回8月のバンコクでの作業
部会を経て、11月下旬からのドーハ会議で合意ができれば順当と見る方が妥当である。

では、作業計画の策定について、一体どこにそのような難しさを引き起こす要因があるのであ
ろうか?各国の提出意見からは、2つのポイントに論争の火種があると考えられる。1つは、衡平
性/共通だが差異のある責任原則の取り扱いであり、もう1つは、法的形式に関する解釈の違い
である。

2.2. 衡平性/共通だが差異のある責任原則の取り扱い
ダーバン・プラットフォーム設立の合意文書では、少なくともその該当部分の決定だけを見れ
ば、これまでのように共通だが差異のある責任原則への言及がない。また、2015年に合意がされ
るものの法的な形式について言及した部分では、最後に applicable to all parties (「全ての締
約国に適用される」)とある。

1 Decision 1/CP.17(FCCC/CP/2011/9/Add.1)。
2
これらの事実から、多くの先進国は、この合意が、今までの「共通だが差異のある責任原則」
の一義的な適用、特に「先進国­途上国」という区別を超えていくきっかけになるとの見方をとっ
ている。たとえば、今回の会議に合わせて出された提出意見の中において、アメリカはダーバン・
プラットフォームが画期的であったポイントとして、「新しい合意が、先進国・途上国ともに、法
的効力を持つことを明確にしている点」を挙げている。日本も、同じく提出意見において、こ
の applicable to all parties という表現を同じく強調している2。

「衡平性」や「共通だが差異のある責任原則」は、枠組条約に含まれる原則であるため、さす
がにそれら自体が消え去ったと考えている国はないが、少なくとも先進国の立場からは、衡平性
や共通だが差異のある責任原則の再解釈の余地を与えるものとの捉え方が多い。

これに対して、ダーバン合意の際にもこの点について強い反対をしたインドは、提出意見の中
で、 applicable to all parties とは、合意内容が関係する締約国全てに効力があるという当たり
前のことを述べているのに過ぎないと強調しており、先進国と途上国の差異を曖昧にするもので
はないと主張している。同じく意見を提出している中国やブラジルも、共通だが差異のある責任
原則の重要性を再度強調しており、この点については、従来と同じような対立が見て取れる。

今回からドーハまでの議論において、ADPの作業計画の書きぶりや、実際の中身の議論の双方
において、この点に関する議論は大変なものとなることが予想される。

2.3. 法的形式に関する解釈の違い
ダーバン会議では、法的形式について、以下の3つのタイプを列挙することで何とか合意にこぎ
着けた。

• 議定書(a protocol)

• 他の法的文書(another legal instrument)

• 法的効力を有する合意された成果(an agreed outcome with legal force)

特に最後の文言の表現を飲むか飲まないかに当たっては、インドが強く反対をしていたことは
記憶に新しい。この最終的な合意に関する法的形式の議論を最初から始めてしまうと、なかなか
合意ができない可能性の方が高いので、最初の段階では、あまりこうした「形式」の議論に時間
を費やすことはせず、むしろ、アイディアや概念に関する自由な意見交換をするべきだとの意見
は、先進国・途上国双方において強い。

たとえば、日本、アメリカ、インドの3国は、それぞれの提出意見において、それぞれに若干
に違うニュアンスながら、奇しくも「ブレーンストーミング」を最初にするべきだと述べている。
また、ブラジルも、具体的にどのトピックがとは述べていないが、初期の議論は、意見が収斂し
やすいものから始めて、その後の交渉にとって必要な自信・信頼の獲得をするべきだとの意見を
出している。さらに、環境十全性グループ(Environmental Integrity Group)を代表して意見提
出したスイスの意見の中でも、2012年は「コンセプト」について議論をするフェーズにするべき
だ、と主張している。ちなみに、スイスの提出意見は、2012∼2015年の時期を3つのフェーズ

2 共に、 FCCC/ADP/2012/MISC.3 より。


3
(コンセプト、中身、形式の3つ)に端的に分けているという点で、アイディアとしては興味深
い。

図1:スイス(EIG)の意見にある2012∼2015年のフェーズ(段階)の分け方

(出所) FCCC/ADP/2012/MISC.3 掲載のスイス・EIGの意見より。

このように、序盤においては、法的形式に係る議論を避けようという雰囲気が提出意見からは
読み取れる。しかし他方で、同時に、依然として対立の火種があることも読み取れる。

インドは、意見の中で、上記の3つの法的形式のうち、ダーバンでの論争の末に導入された3番
目の文言について、独自の解釈を述べている。それによると、前2者(「議定書」と「他の法的文
書」)は、締約国が批准をしなければならない合意を指すが、3番目の「法的効力を有する合意さ
れた成果」は、締約国が批准をしなければならない合意ではなく、COP決定を含みうるものであ
るという。「法的効力を有する合意された成果」という言葉は、様々な解釈を持ち得るが、
「COP決定でもよいのだ」という明確な解釈には、EUなどは当然反発するであろうし、AOSIS諸
国なども意見を異にすると考えられる。各国とも序盤の交渉ではこの議論を避けようとはするで
あろうが、きっかけがあれば再燃する火種として、この点は残っていると考えられる。

3. 野心のレベルの引き上げ
3.1. いつの時点に関する引き上げか?
ダーバン・プラットフォームの設立を合意したCOP17の合意は、同時に、野心(ambition)
のレベルの引き上げについても言及している。この「引き上げ」に関する文言は、やや複雑なの
で、少し丁寧に見てみよう。3つのポイントがある。

まず、第1に、当該決定の前文において、各国の2020年までの排出量削減に関する誓約目標を
集約した効果と、「2℃未満」もしくは「1.5度未満」に必要な排出経路との間にギャップ(乖
離)があることについて、「深刻な懸念」(grave concern)を持って留意すると書かれてい
る。

第2に、上述のダーバン・プラットフォームの交渉プロセスは、「野心のレベル」(the level
of ambition)を引き上げなければならないと述べている。この「∼ならない」の表現には、最も
強い表現である shall という言葉が使われているため、この位置づけはそれなりに重い。この引

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き上げは、「2013∼2015年のレビュー」とIPCCの第5次評価報告書、そして他の機関(AWG
LCAなども含む)からの情報インプットを受けるとされている。

第3に、「その」野心のギャップを埋めるために、「全ての」締約国の努力を最大化すること
を目途として、作業計画(workplan)を発足することを決定する、とある。ここでいう作業計
画は、上述のダーバン・プラットフォーム全体の作業計画とは別物である。つまり、ダーバン合意
の下で、ADPは2つの作業計画の作成が求められていることになる。

ダーバン・プラットフォーム自体が2020年以降の新しい枠組みに関する交渉プロセスであるた
め、 普通に読めば、この部分の文章はあくまで「2020年以降」の野心のレベルの引き上げにつ
いて述べているのであって、現在各国がすでに掲げている2020年目標に係る議論は、少なくとも
主ではないと読める。ただし、上述の第1のポイントで言及されている「ギャップ」はあくまで
2020年目標と必要な削減量との「ギャップ」であり、第3のポイントで言及されている作業計画
は、「その野心のギャップ」(the ambition gap)を埋めるためのものと位置づけられている。
このことから、ここで作るべきとされている作業計画によって引き上げられるのは、2020年目標
に関するものも含み得るとの解釈が成立しうる。

この部分における解釈が、各国の提出意見の中にも現れている。たとえば、EUは、「2020年
までの野心」と「2020年以降の野心」の両方の引き上げについて、提出意見の中で考えを述べて
いる。他方で、インドは、この部分について、「2020年までの野心の引き上げ」については先進
国のみに責任があり、条約第4条2項(d)の「妥当性」(adequacy)レビューを持って見直すべ
きだとしており、「作業計画」はあくまで「2020年以降の野心の引き上げ」についてのものだと
している。条約第4条2項(d)の妥当性レビューとは、条約に元々入っている各国の取組みが条
約の究極目的に照らし合わせて妥当かどうかを判断するレビューのことである。元々、これを
持って、京都議定書を作ることが必要だとしたのが、ベルリン・マンデートであった。

このように、ダーバン合意の「野心の引き上げ」がどこの部分を指しているのかについては、
若干の解釈の違いがある。しかし、純粋に科学的な観点から見て、大気中に排出されるCO2や他
の温室効果ガスの量から考えれば、両者を分けることにそれほど意味はない。IEAの報告書にある
ように、2020年までの削減行動が遅れれば、いずれにしても「2度未満」目標ですら達成不可能
になってしまうからである。

以下では、具体的にどのような手段が、締約国の意見の中で見られるのかについて、具体例を
見て行く。

3.2. 野心のレベルの引き上げ手段
野心のレベルの引き上げについての各国提出意見の中で、一般的に見られる傾向としては、以
下の3つが言える。

第1に、先進国・途上国とも、現在掲げている目標・削減行動計画の明確化が重要であるとの
認識は、少なくとも共有している。

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第2に、ただし、途上国は、目標強化や、各国が付けている前提条件の撤廃、範囲を持って示
している場合のより野心的な方の目標への移行については、先進国に対してのみ必要だとの議論
が強い。

第3に、途上国の削減行動については、途上国の側からは先進国からの資金・技術・キャパシ
ティビルディング支援に依存するとの主張も強く、アメリカ等は、そのような支援に対する条件
付けは認められないと主張している点で対立がある。

こうした各国が掲げている(誓約している)目標そのものについての「引き上げ」議論の他に
も、いくつか、各国の意見の中に典型的に見られる「引き上げ」手段がある。

代表的なものは、HFCの排出量の削減や、その他の短期寿命の温室効果ガスの削減イニシア
ティブである。今年の2月に、アメリカ・クリントン国務長官が他の5カ国 3の参加国と共に立ち上
げた「短期寿命気候汚染物質削減のための気候と大気浄化のコアリション」(Climate and
Clean Air Coalition to Reduce Short-Lived Climate Pollutants)などが、念頭にあると考え
られる。ちなみに、同イニシアティブには、日本も4月に正式参加を表明している4。

この他、現在の削減目標では対象となっている国際航空・船舶からの排出量の削減、化石燃料
補助金の廃止、資金・技術・キャパビル支援の強化(上述の途上国の主張に関連する)、ダブ
ル・カウントの禁止、自然エネルギーや省エネルギー促進など、様々な手段が提案されており、
今後のこの「作業計画」議論の中で、どこまで取り入れられるかが1つのポイントとなる。

興味深いのは、アメリカも含めて、いくつかの先進国が「化石燃料補助金の廃止」を掲げてい
る点である。これは、G8やG20における合意の中で既に掲げられているため、各国とも問題なく
掲げることができているのだと想像がつくが、本格的に取り入れられることになれば、それなり
に大きな影響があると考えられる。定量的な評価は少ないが、議論の中で注目するべきポイント
の1つとは言えるであろう。

表2:野心のレベルの引き上げ手段として提案されている主なもの

誓約目標の強化・実施 条件の廃止 / 範囲がある場合のより野心的な目標の選択

目標以外の取組み HFC排出量の削減 / 短期寿命気候汚染物質の削減

国際航空・船舶からの排出量削減

化石燃料補助金の廃止

資金・技術・キャパビル支援の強化

ダブル・カウントの禁止

3 カナダ、スウェーデン、メキシコ、ガーナ、バングラデシュ
4外務省 「『短期寿命気候汚染物質削減のための気候と大気浄化のコアリション』への我が国の参加の通
報」(2012年4月23日) http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/24/4/0423_02.html
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自然エネルギー促進や省エネルギー促進の強化

長期の削減計画等の策定

(出所)筆者作成。ただし、網羅的ではなく各国の意見に比較的頻繁に出てくるものを主観的に選択し

4. 新しい「メカニズム」
4.1. 新しい市場メカニズムの設立と「様々な手法に関するフレームワーク」

ダーバン合意では、CDM等の既存のメカニズムに加えて、新しいメカニズムの設立に関して、
2つの方向性が示された5。

1つは、EUが強く主張した「新しい市場メカニズム」の設立である。ダーバンでは、「設立」
(establish)ではなく、「定義する」(define)という言葉が使われたが、いずれにしても、今
後の国連交渉の中で制度設計がされていくことになる。主題となるのは、EUなどが推進している
セクトラル・クレディティングとセクトラル・トレーディングという2つの仕組みであろう。

もう1つは、様々な手法に関するフレームワークである。「様々な手法」(various
approaches)という言葉は、市場メカニズムだけでなく、非市場メカニズムも含め、あらゆる
緩和促進の仕組みを包括的に指し示す言葉として、バリ行動計画から使用されている用語であ
る。この背景には「市場」の活用自体に懸念を示す国々への配慮がある。こちらは、日本の2国間
オフセット・クレジット制度提案のように、各国が独自提案している仕組みを、どのように扱う
のかが課題となる。

これら2つの違いを、「具体的な制度の作られ方」に着目して敢えて単純化すれば、以下の図2
のようになる。図の左にあるように、「新しいメカニズム」については、各国の提案をベースと
しながらも、基本的には締約国会議の場でルール形成が行われることになる。これに対して、
「様々な手法のフレームワーク」が想定しているのは、日本の2国間クレジット・オフセット・メ
カニズムのように、各国が独自の仕組みをある程度作り込み、それが、国連レベルでの基準等に
合致する、もしくは整合性がとれるかを確認するという形になると考えられる。前者をトップダ
ウンとすれば、後者はボトムアップということもできる。

今回の会議では、これら2つについてそれぞれワークショップが開催され、アイディアと意見が
交換されることになっている。おそらく、本格的な交渉に入るというよりは、それらのアイディア
の確認等の作業で終わるのではないかと予想されるが、EUのように早期に新しいメカニズムの具
体化を望んでいる国と、慎重もしくは反対している国との対立があるかもしれない。

図2:「新しい市場メカニズム」と「様々な手法のフレームワーク」の考え方の違い

5ダーバンでの「メカニズム」に関する合意の詳細については、拙稿「『メカニズム』の将来をめぐる交
渉」(http://www.wwf.or.jp/activities/upfiles/20120110_douban_report_mechanisms.pdf)を参照
されたい。
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4.2. 新しい市場メカニズムに関する様々な意見
前述の通り、この「新しい市場メカニズム」の設立について、最も積極的かつ具体的に提案を
展開しているのはEUであり、今回の提出意見でも、セクトラル・クレディティングとセクトラ
ル・トレーディングについて、具体的にどのような仕組みの中で運用されるべきかが提案されてい
る。日本、アメリカ、ニュージーランドなどの他の先進国も、程度の差はあれ、こうした仕組み
の創設については比較的前向きである。

ただし、これには異論もある。元々「市場」概念の持ち込み自体に反対しているALBA諸国は
今回も反対をすることが予想される。さらに、中国も、今回の提出意見の中で、「新しいメカニ
ズム」はプロジェクト・ベースでなければならないと述べている( FCCC/AWGLCA/2012/
MISC.6および同Add.1)。この点は、EUが提案する「セクトラル(部門単位)」の仕組みとは
対立することになる。

ただし、この論点については、伝統的な先進国対途上国という対立軸はあまり当てはまらな
い。途上国の中でも、AOSIS諸国はセクトラルの仕組みの設立を、環境十全性を強調して厳しい
条件をつけながらも支持しているし、パプアニューギニア等の熱帯雨林諸国連合(Coalition for
Rainforest Nations)などの国々は、REDD+への市場メカニズムの活用を念頭においた提案
を行っている。このREDD+への活用については、アメリカも、その提出意見の中で支持をしてい
る。

セクトラル以外の提案で特殊なのは、LDC(後発開発途上国)を代表して意見提出をしたガン
ビアの意見である。ガンビアの意見では、現状のCDMで設定されている「小規模」のカテゴリー
よりも更に小さい「マイクロ(極小)」のプロジェクトカテゴリーを設置するべきだとの意見を

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述べている6。現状のCDMでは、小規模CDMは、通常のCDMプロジェクトよりも審査が簡素化さ
れているが、この「マイクロ」提案ではさらに、通常であれば7年ごとに2回の更新(=21年、も
しくは10年の更新無し)が必要なクレジット発行可能期間を、21年の通期にするべきだとの提案
をしている。これは、「新しいメカニズム」の提案というよりは、既存のCDMに関する提案では
あるが、「大きな」方向性(セクトラル)への提案とは反対に、「小さな」方向性への提案が出
ていると言う点では興味深い。ちなみに、こうした「マイクロ」カテゴリーは、民間の自主的な
オフセットの中には既に存在し、ゴールド・スタンダードの中にもその基準が存在する。

4.3. 様々な手法のフレームワーク(framework for various approaches)


様々な手法のフレームワークについても、今回、本格的な交渉が進展するとはやや考え難い
が、各国の提出意見を見ると(FCCC/AWGLCA/2012/MISC.4および同Add.1)、今後も含め
て、主に2つの点が論点になってくると予想できる。

1つは、このフレームワークについて、どれくらい、国連が具体的に「基準」(standards)
なり「原則」(principles)を設定するかである。国連の仕組みの下での様々な仕組みの互換性・
整合性を重視するEUや、環境十全性を重視するAOSIS等は、国連主導での「基準」作りを主張し
ているが、少なくとも、前回までの交渉をみる限り、日本やアメリカなどは、より各国の制度作
りに自由度を持たせたいと考えているようであり、議論が対立する可能性がある。今回の提出意
見でも、(従来通り)日本は「分散された」(decentralized)ガバナンスを強調し、「基準」
は、(国連ではなく)実施国が設定することが最良であると主張している。EUは、この点につい
ては、新しいメカニズムの基準とこちらの様々な手法の基準は原則的に同じにするべきと述べて
いるので、意見の相違が顕在化する可能性はある。

もう1つは、非市場型のメカニズム提案の扱いである。市場メカニズムについて積極的な提案
を行っているEUも、HFC排出量の削減等については、非市場型のメカニズムの検討をするべきだ
との主張を展開している。また、従来から市場の活用に反対している国々の1つであるエクアド
ルは、今回の提出意見の中で、「ネット回避排出量」(Net Avoided Emissions)メカニズム
という概念を導入し、このための機関をCOPの下に設けるべきだとの具体的な提案を行ってい
る。NAEメカニズムなるものの詳細はやや不明瞭ではあるが、各国が何らかの基準を元に設定す
る重要セクター&活動について、レファレンスレベルでの排出量を設定し、そこから「回避」され
た排出量をある種のクレジットとして扱うという提案のようである。この背景には、おそらく、
エクアドルという国自身が、実施しているヤスニITTイニシアティブが背景にあると推察される。
これは、同国のヤスニ国立公園での油田開発を放棄する替わりに、そこで発生したであろう熱帯
雨林破壊からの伐採等からの排出量の回避、生物多様性喪失の回避について、資金支援を受ける
というイニシアティブである。

今回、ワークショップ等のアイディア出しを通じて、どれくらい、各国の考え方とその相違点
が明らかになるかがポイントとなるであろう。

6ただし、この意見は「新しいメカニズム」に関する提出意見ではなく、「様々な手法のフレームワーク」
に関する提出意見において述べられている。
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